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第十三話 聖夜、涙の誓い 愛してはいけない人①

last update Petsa ng paglalathala: 2025-06-19 18:01:11

【二〇一五年 杏】

 二人はどこへ消えたのだろう。

 広すぎる屋敷の中を探すのは、想像以上に骨が折れそうだ。

 けれど、先ほど修司の父と雅也が部屋を出てから、まだそれほど時間は経っていない。遠くまで行っているはずはないと、自分に言い聞かせた。

 静かに足を止め、目を閉じる。少しの風の音にも耳を澄ませた。

 ――聞こえる。

 かすかに、人の話し声がした。

 風のざわめきに紛れるような、小さな小さな声。

 慎重にその方向を探る。

 応接室から三つ隣の部屋。

 その扉は、ほんのわずかに開いていた。

 隙間からこぼれるぼそぼそとした声に、私は吸い寄せられる。

 胸の奥で鼓動が高鳴る。

 そっと足音を殺しながら、扉へと近づいていく。

 手のひらは汗ばみ、喉が乾く。

 深呼吸を一つして、わずかな隙間にそっと目を寄せた。

 そこには、修司の父と雅也の姿があった。

 重く張り詰めた空気の中で、二人は向き合いながら言葉を交わしている。

「おい、親父……大丈夫なのか? あの子って……」

 雅也の声は低く、苛立ちが滲んでいる。

 顔には焦りが色濃く浮かんでいた。

「わかっている。……心配はいらん。

 “あのこと”は、まだ二人とも気づいていない」

 修司の父は、雅也とは対照的に、落ち着き払った様子だった。

 椅子に深く腰を下ろし、まるで全てを掌握している者のような余裕を漂わせている。

 ――あのこと。その言葉に、私の心は大きく揺れた。

 まさか、事件のこと……?

「でもさ、杏って子がもし気づいたら……」

「その時は、私がなんとかする。

 ……おまえは余計なことを考えず、いつも通りにしていればいい」

 父親は微かに笑みを浮かべながら、雅也に言い聞かせるように告げた。

 雅也はほっとしたように肩を下ろし、けれど、なおも不安げな視線を父に向ける。

「だけど……修司もさ、まさかあんな子を好きになるなんてな。

 運命って、皮肉だよな」

 彼は、薄く笑った。

 その笑みは冷たく、どこか人を嘲るようなものだった。

「そうだな……修司には悪いが、あの子とは別れてもらうしかないな」

 父親も雅也に同調するように言葉を重ねる。

 そして次の瞬間――

「だって俺の罪をかぶせた奴の娘だぜ?」

 雅也が無造作に放ったその言葉は、私の全身を凍りつかせた。

「おいっ! そのことは軽々しく口にするな。もしも誰かに聞かれたらどうする!」

「……わかってるよ。悪かったな」

 二人は急に声を潜める。

 その直後、こちらに鋭い視線が向けられた気がして、私は慌てて身を引いた。

 呼吸を殺し、口を手で覆う。

 動悸は激しく、喉は焼けつくようだ。

 今……確かに聞こえた。

『俺の罪をかぶせた奴の娘』

 私の父を……父を貶めたのは、やはり雅也だった。

 雅也が、真犯人だ――!

 その確信が胸を貫いた瞬間、私は目の前が真っ白になるような眩暈に襲われた。

 今にも叫び出しそうになるのを、必死に押し殺す。

 胸が張り裂けそう……。

 怒りと憎しみが胸の奥で膨れ上がり、今にも口から溢れ出しそうになる。

 それでも私は、奥歯を噛み締めて堪えた。

 だめだ。

 ここで声を上げたら、すべてが終わる。

 私は、静かに目を閉じ、感情を押し殺した。

 二人に見つからないうちに、ここを離れなくては――。

 そう思いながらも、私はうまく足を前に出すことができなかった。

 膝ががくがくと震え、力が抜けたように動かない。

 でも、それでも。

 私は足を前へ踏み出す。

 ふらふらとした足取りで、それでも必死に応接室へと戻ろうとする。

 このまま、私がいなくなってしまえば、不自然に思われるかもしれない。

 せめて修司にひと言だけでも告げてから。

 そう思ったとき、足が途中で止まってしまった。

 胸の奥に、重い鉛のような感覚が広がる。

 修司の顔を見て、平気でいられる?

 憎い相手の弟で、息子なんだよ……。

 そんな考えが、頭の隅をよぎる。

 そのとき、応接室のドアが音もなく開いた。

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Mga Comments (1)
goodnovel comment avatar
憮然野郎
やっぱり修司の兄と父の仕業だったんですね...️ 居た堪れないですよね...
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